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松山地方裁判所 昭和50年(行ウ)1号 判決 1978年5月30日

原告 川口寛之 ほか九名

被告 建設大臣 ほか二名

訴訟代理人 麻田正勝 河野時造 山本喬久 片山卯三郎 今井寿二郎 ほか一二名

主文

本件訴えをいずれも却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

(一)  被告愛媛県知事が昭和四八年三月一六日付及び同年一〇月四日付でなした別紙一記載の各土地につき、公共用財産(里道及び水路)としての各用途を廃止した処分は、無効であることを確認する。

(二)  被告建設大臣が昭和四九年一〇月一七日に前項掲記の愛媛県知事の処分に対する原告らの審査請求を却下した裁決は、これを取り消す。

(三)  被告四国財務局松山財務部長が昭和四八年一〇月五日付で訴外四国電力株式会社に対してなした別紙一記載の各土地の売払処分は、これを取り消す。

(四)  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  被告ら

1  本案前の裁判として、

主文と同旨。

2  本案の裁判として、

(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二主張

一  原告らの請求の原因

1  被告愛媛県知事関係

(一) 被告愛媛県知事は、昭和四八年三月一六日及び同年一〇月四日に別紙一記載の各土地(里道及び水路)の用途廃止処分をした。

(二) 被告愛媛県知事の右処分は、建設省所管国有財産取扱規則三条、一七条に違反した重大かつ明白な瑕疵があるものである。

すなわち、

(1) 原告らのうち、井田與之平、大沢喜八郎、坪内実之丈、広野房一、松田恒敏、久保與十一、大沢肇は、本件里道に接して、別紙二記載のとおり、それぞれ山林又はみかん畑を所有していて、その所有山林の管理、育成、又はその所有するみかん畑の管理、みかんの栽培等のために、本件里道を利用しているものであり、また、原告川口寛之、同井上常久、同西園寺秋重も本件里道に接した土弛に立木を所有していて、その管理、育成等のために、本件里道を利用しているものである。更に、原告広野、同坪内、同久保は、前記土地で栽培しているみかんに対する夏期渇水期の給水や、消毒用薬剤の稀釈用液の取水等のため、本件水路を利用しているものである。

(2) しかも、本件里道等は、徳川時代以来、伊方町九町地区住民が、近隣の田畑、山林の耕作、管理等のために農道、林道として利用し、又は行楽その他の用に供する一方、九町地区区長を中心として同地区住民が、これを補修、改善等をしてきたものである。したがつて、本件里道等は、認定外道路等として国有財産法三条二項二号の公共用財産であるとはされていても、本件里道等について伊方町九町地区住民が有する利益は、一般国道における公衆の通行の利益などとは異質のものであり、原告西園寺を除くその余の原告らは、右地区住民として、本件里道につき慣行通行権又は入会権的通行権が、また、本件水路につき慣行利用権又は入会権的利用権があるものである。

(3) 以上の次第で、原告らには本件里道の通行権があり、仮にしからずとするも、法的保護に価する程度の通行上の利益を有し、また、原告西園寺を除くその余の原告らには、本件水路の利用権があり、仮にしからずとするも、法的保護に価する程度の利用の利益を有する。

(4) しかるに被告愛媛県知事は、本件里道等を訴外四国電力株式会社(以下四国電力という。)に対し、原子力発電所用地として売り渡す目的で、その用途廃止処分をなしたものであるが、用途廃止処分をするに当たつては、前記規則三条、一七条の趣旨に従い、現地調査又は地元民からの事情調査、公聴会等のしかるべき方法により、本件里道等の利用の実態を調査しなければならないのに、これをなさず、前記目的を達するために、本件里道等の前記の利用実態を故意に無視して、すでに利用者のない里道等であるとし、又は、法規上当然要求されているとみられる調査手続を行なえば、容易に判明すべき本件里道等の利用の実態を、右調査手続を怠るという重大な過失によつて、利用者のない里道等であると誤認し、前記用途廃止処分をして、もつて前記原告らの権利若しくは法益を侵害したものである。

(三) したがつて、被告愛媛県知事がした前記用途廃止処分には重大かつ明白な瑕疵があるので右処分は無効である。よつて右処分の無効確認を求める。

2  被告建設大臣関係

(一) 被告建設大臣は、昭和四九年一〇月一七日、前記愛媛県知事がした本件里道等の用途廃止処分に対し、原告らが行政不服審査法に基づいてした審査請求を却下する裁決をした。

右却下裁決の理由は、本件里道等に対する原告らの通行等の利益は単なる反射的利益であり、したがつて、原告らには前記用途廃止処分に対し不服申立をなすべき権利はないというにある。なお、右裁決は昭和四九年一〇月二〇日原告らに通知された。

(二) しかしながら、前記(1の(二)の(一)(二)(三))のとおり、原告らは本件里道等に対し、通行権等があると見るべきであり、被告建設大臣の右裁決の理由には、判断を誤つた違法がある。

なお、前記規則一七条二項によれば、建設大臣は部局長(本件里道等については愛媛県知事)から出された用途廃止申請書を、予め点検し、用途廃止事由の外、処分方法及びその他参考となるべき事項を承認することとなつている。したがつて、被告建設大臣において、右規則に従い、忠実に本件里道等の用途廃止申請書を点検し、疑義を直し、あるいは自ら調査していれば、原告らが、前記用途廃止処分により侵害されたと主張する権利、利益は、単なる反射的利益であるとの理由で、原告らの不服申立の適格性を否定する判断は導出されなかつたはずであり、この点においても、被告建設大臣のした前記裁決には重大な瑕疵がある。

(三) よつて、被告建設大臣がした前記裁決を取り消すことを求める。

3  被告四国財務局松山財務部長関係

(一) 被告松山財務部長は、昭和四八年一〇月五日、別紙一記載の各土地を訴外四国電力に売り払う処分をした。

なお、原告らは、同年一一月五日、四国財務局長に対し、行政不服審査法に基づき右処分の審査請求をしたが、同局長は昭和四九年一〇月二八日請求を却下する裁決をした。

(二) 被告松山財務部長のした前項の売払処分は、前記愛媛県知事がした用途廃止処分を前提とするものであり、前記のとおり右用途廃止処分は無効と見られるので、ひいては、右売払処分には重大な瑕疵があるものとなる。

(三) また、右売払処分は、大蔵省訓令二号普通財産取扱規則三条、九条に違反し、原告らの前記通行権若しくは通行の利益を無視し、四国電力の私的利益を図つてなされた不適正な売払処分である。

(四) よつて、右売払処分の取り消しを求める。

二  被告らの本案前の主張

1  被告愛媛県知事

(一) 行政事件訴訟法三六条所定の「法律上の利益」は当該行政処分の根拠となつた法規が、個別的、具体的に保護しようとする利益であることを必要とするものと解すべきである。

しかるところ、本件里道等は国の所有に属し、国有財産法三条二項二号所定の公共用財産として、同法九条三項及び建設省所管国有財産取扱規則三条の規定により、愛媛県知事が、これを道路法の適用を受けない、いわゆる認定外道路等として管理しているものである。

(二) しかして、公衆が本件里道を通行することができるのは、愛媛県知事が道路管理者として、本件里道を公の目的から一般交通の用に供していることの反射的利益としてその通行の自由を享有し得るに止まり、本件里道を通行することによつて、その者が、これを通行する権利はもとより、法律上の利益も取得できるものではない。

(三) なお、原告らの本件里道使用の実態についてみると、原告らの住居はその肩書地のとおりであり、原告らがその住居から別紙二記載の各土地へ行くために、通常一般的な道順を選べば、本件里道を通行することはない。

もつとも、過去においては、本件里道地先の海岸へ行くために、本件里道を通行することがあつたかも知れないが、右海岸は訴外四国電力が、昭和四七年三月二八日、愛媛県知事の埋立免許を受け、工事を施行したことにより、海岸線の前面に埋立地ができ、そのため、別紙一の番号15の旧里道部分を除いては、すでに用途廃止処分前に海岸に通ずる里道としての効用はなくなり、海岸への通行の実態はなくなつていた。他方、別紙一の番号15の旧里道については、その用途を廃止した昭和四八年一〇月四日に、右里道とほぼ同一の海岸地に通ずる代替道路が新設され、十分代替的効用を果たしている。したがつて、仮に原告らが、右海岸地に行くとしても右里道の用途廃止処分をしたことは何ら支障を生じない。

(四) 本件水路は、自然水の排水路であり、降雨の際には雨水が流れるが、湧水は少ないため、右水路の流水を利用することはできず、また、右水路の流水を利用しなければならない人家、農地等も存在しなかつた。しかも、用途廃止をした水路の付近には、自然水の排水のために代替水路が新設されている。したがつて、本件水路の用途を廃止したことにより、原告らの権利、利益が侵害されることはあり得ない。

(五) なお、原告らのうち、川口寛之、井上常久、西園寺秋重、松田恒敏、大沢肇、坪内実之丈、広野房一は、用途廃止をした里道及び水路付近に土地を所有していない。

(六) 以上のとおり、原告らには、本件里道等の用途廃止処分によつて侵害される法律上の利益はなく、したがつて、原告らには本件無効確認訴訟によつて回復すべき法律上の利益は存在しないから、原告らの本件訴は不適法なものとして却下を免れない。

2  被告建設大臣

被告建設大臣が、原告らの審査請求を却下する裁決をしたことを記載した書面は昭和四九年一〇月二〇日に原告ら方に到達したが、原告らは、その日から約八か月を経過した昭和五〇年七月一七日に至つて本件訴えを提起したものであるから、原告らの本件訴は行政事件訴訟法一四条一項所定の出訴期間を徒過したものとして却下を免れない。

3  被告四国財務局松山財務部長

被告松山財務部長が別紙一記載の各土地を四国電力に売り払つたのは、普通財産としての売り払いであつて、行政処分としての性質を有するものではない。したがつて、原告らの本件訴えは行政処分でない行為を、行政処分として取り消すことを求めるものであるから、不適法なものとして却下を免れない。

三  被告らの本案前の主張に対する原告らの答弁及び反論

1  被告愛媛県知事関係

(一) 被告らの本案前の主張1の(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の主張は争う。

(三) 公共用物である道路等に対して、特定人がその利用等の具体的関係を有するに至つた場合には、その公用廃止処分をその特定人が争いうることは当然のことである。のみならず、ある財産が公共用物とされた経緯には、さまざまな理由があり、本件里道等についていえば、原告らが、その祖先以来、伊方町九町地区の居住民とともに、いわば総有的に利用、管理してきたものであり、これが本件里道等が公共用物とされた所以である。したがつて、原告らの本件里道等の利用関係は、一般の公衆の公共用物利用とは異なる実態を有するものである。

(四) 前同(三)ないし(五)の事実のうち、原告川口、同西園寺、同井上が本件里道の付近に土地を所有していないことは認めるが、その余の事実は否認する。同(六)は争う。

2  被告建設大臣関係

(一) 前同2のうち、原告らに被告主張のとおりの裁決の通知があつたことは請求の原因で主張しているとおりである。その余の事実は否認する。

(二) 原告らが、被告建設大臣を相手として本訴を提起したのは、昭和五〇年一月一八日であり、その訴の内容が被告建設大臣のした本件里道等についての処分を争う趣旨のものであることは、訴状の請求の趣旨の記載からも明らかである。なお、原告らは、昭和五〇年七月一七日付(同日裁判所受理)の訴状の訂正等の申立書により請求の趣旨を補正し、被告建設大臣がした前記裁決の取り消しを求めることを本訴請求の趣旨としたが、本件訴えは被告建設大臣が処分をなしたことを原告らが知つた日から三か月以内である昭和五〇年一月一八日に提起されたことに変わりはない。

3  被告四国財務局松山財務部長関係

(一) 前同3の主張は争う。

(二) 被告松山財務部長がした前記売り払いは、被告愛媛県知事がした前記用途廃止処分と密着した一連のものであり、用途廃止すなわち売り払いという関係にあるもので、単なる普通財産の売り払いとは異なるものである。また右売り払いを用途廃止処分とは独立のものとみても、右売り払い先の四国電力は当該土地を原子力発電所用地として使用するために右売り払いを受けたものであるところ、原子力発電所はまだその安全確保の技術が完全なものではなく、事故時はもちろん平常運転時においてさえも、原子炉内で産出する放射性物質等を周辺環境等に放出し、その放射線に被ばくさせることによつて、原告らの生命、身体等に重大な損傷を及ぼす虞れのあるものである。このような危険な施設の設置のために右売り払いはなされたのであるから、右は行政事件訴訟法三条一項所定の処分性が認められるものである。

四  本案前の主張についての原告らの反論に対する答弁

1  被告愛媛県知事

被告らの本案前の主張に対する原告らの答弁及び反論1の(三)の事実は否認し、その余の主張は争う。

2  被告建設大臣

前同2の(二)のうち、本訴の提起された日、訴状の訂正等の申立書が提出された日はいずれも認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

3  被告四国財務局松山財務部長

前同3のうち、売り払いが用途廃止処分と密着した一連のものであり、用途廃止すなわち売り払いの関係にあり、単なる普通財産の売り払いとは異なるとの主張、本件売り払いには処分性があるとの主張はいずれも争う。その余は不知。

五  請求の原因に対する答弁及び被告らの主張

1  被告愛媛県知事

(一) 請求の原因1の(一)の事実は認める。同(二)のうち、原告井田ほか六名が別紙二記載の山林又はみかん畑等を所有しているとの事実は不知、その余の事実は否認し、主張は争う。同(三)の主張は争う。

(二) 本件里道は誰もが通行できる公道であつて、原告らがそこを通行してきたからといつて、特に原告らに特定の権利が発生することはない。現に、原告らが、本件里道をこれまで通行してきたのは、特定の権利の行使としての通行ではなく、一般的な、公共用物の自由使用の一環としてのものであり、原告らが本件里道等の補修、改善をしてきたとしても、それをしなければ原告らの所有土地の使用に不便をきたす関係でこれをしたもので、このことが原告らに特定の権利を発生させることはない。

(三) 被告愛媛県知事は、昭和四八年二月二七日、訴外四国電力から本件里道の一部である伊方町九町アラカヤ二番耕地六〇七番地先の里道の用途廃止申請を受けた。そこで被告愛媛県知事は右里道の公共性について調査、検討したところ、右里道の利用が不可欠のものであつた隣接の農地のすべてが、用途廃止申請人四国電力に売り渡され、その所有となつていること、その附近に里道に代わる町道が開設され、昭和四一年以降、その付近の住民は町道を利用し、右里道はほとんど利用されていないことがいずれも明らかになつた。

ついで、同年九月一八日、四国電力から右の里道を除くその余の里道等の全部について用途廃止申請及び代替道路等の寄付採納願があつたので、被告愛媛県知事はこれらの里道等の公共性の存否について調査、検討したところ、右里道の利用を不可欠のものとしていたその付近一帯の農地、山林のほとんどが用途廃止申請人四国電力に売り渡され、その所有となつており、四国電力に売り渡されていない農地等についても、四国電力が代替道路を新設して寄付することにより、本件里道を通行する必要性がなくなつていること、また、本件水路についても、四国電力が代替道路を新設し、それを寄付することにより、本件水路を併存させ、保持しておく必要性がなくなつていることがいずれも明らかとなつた。

(四) 知事が用途廃止処分をなすには、適宜な方法で、建設省所管国有財産取扱規則一七条所定の必要性の存否を認定すれば足るものである。そして、被告愛媛県知事は前記事実を、伊方町土地改良区理事長、伊方町長及び伊方町農業委員会からの事情聴取により知り、本件里道等の公共性がなくなつたものと判断したのである。

2  被告建設大臣

(一) 前同2の(一)の事実は認める。同(二)のうち、建設省所管国有財産取扱規則一七条二項の規定は認めるが、原告らがその主張の土地、立木を所有しているとの点、原告らがその所有する土地、立木等の管理等のために本件里道等を利用しているとの点、原告らが本件里道等の補修等をしているとの点はいずれも不知。その余の事実は否認し、主張は争う。

(二) 原告らが本件里道を利用すべき権利又は法律上の利益を有しないことは、被告愛媛県知事の主張(1の(二))掲記のとおりである。したがつて原告らの審査請求を却下する裁決をしたことに何ら誤りはない。

3  被告四国財務局松山財務部長

前同3の(一)の事実は認めるが、本件売り払いが行政処分であることは争う。同(二)(三)の事実は否認し、主張は争う。

被告らの主張に対する原告らの答弁

1  被告愛媛県知事関係

(一) 請求の原因に対する答弁及び被告らの主張のーのHHは争う。

(二) 同日のうち、被告愛媛県知事が四国電力から本件里道等の用途廃止申請、代替道路等の寄付採納願を受けたとの事実は不知。その余の事実は否認する。

(三) 同(四)のうち、伊方町土地改良区理事長から事情聴取したとの点は否認する。その余の事実は不知。

2  被告建設大臣関係

前同2の(二)の主張は争う。

第三証拠 <省略>

理由

一  被告愛媛県知事に対する訴えについて

1  用途廃止前の本件里道等は、国有財産法三条二項二号所定の公共用財産であること、建設省所管国有財産取扱規則三条により被告愛媛県知事が認定外道路等として管理していたことについて、原告らと被告愛媛県知事との間では争いがない。

しかして、一般に公共用物は、その管理者がこれを公共の用に供していることから、一般公衆は、これを利用する自由を享有するが、一般公衆はその利用によつて特定の権利又は法律上の利益を有するに至るものではないものと解される。もつとも特定人の公共用物の利用が、特定の権利又は法律上の利益に基づくものであることを認めるべきで特別な事情のある場合は、右と別異に解することも許されるものと考えられる。そこで、次に原告らについて本件里道について特別な事情が存在するかについて判断するに、<証拠省略>及び弁論の全趣旨によれば、西園寺秋重を除く原告らは、いずれも伊方町九町地区の住民であり、本件里道は、同地区の住民らが、農林業、漁業、又は行楽の用等に使用してきたこと、なお、原告広野房一は別紙二掲記の土地を所有していて、そこに植栽しているみかん等の栽培のために本件里道の一部を利用して年間五、六回位水運びをしていたこと、本件里道は、古くから右地区住民らにおいて補修、改良等の作業がなされていたことが認められるが、これらの事実をもつてしてはまだ前記特別な事情があると認めることはできない。

なお、原告らは本件里道に接して土地又は立木を所有しているので、本件里道を利用する必要があるとして、請求の原因1の(二)の(1)のとおり主張するけれども、<証拠省略>及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告井田與之平は昭和四五年四月一五日にその所有

していた別紙二掲記の土地を四国電力に売り渡したこと、原告久保與十一は昭和四四年七月七日、原告大沢喜八郎は同月一四日に、それぞれの所有していた別紙二掲記の土地を、四国電力に対し、同電力が地質等諸調査の結果により発電所用地として適地であることを確認することを停止条件として売り渡す合意をしたこと、四国電力は遅くとも昭和四七年三月には、地質等諸調査の結果により右土地が発電所用地として適地であることを確認したこと、原告井田與之平は、原告西園寺秋重との間で、昭和四八年一〇月一四日に別紙二記載の原告井田與之平所有の士地に生育していた立木を、原告西園寺秋重に売り渡す合意をしたこと、しかし、右立木は四国電力の申請に基づく仮処分決定の執行により伐採、収去されていることがいずれも認められる。<証拠省略>によるも、右認定を左右するに足らず、他に右認定を左右すべき証拠はない。なお、<証拠省略>及び弁論の全趣旨によれば、原告坪内実之丈、同松田恒敏、同大沢肇も本件里道の付近に別紙二掲記の土地を所有していることが、認められるが、これらの原告がその所有する土地のために本件里道を利用していたことを認めるに足る証拠はない。また、原告川口寛之、同井上常久が本件里道に接した土地で立木を所有していることを認めるに足る証拠はない。

そうだとすると、原告らにおいては本件里道を利用する必要がある土地、立木等を所有しているとはいえないものである。したがつて前記原告らの主張は、前記原告らには本件里道の利用について特定の権利等を認めるべき特別の事情がないとした判断を左右するものではない。

2  <証拠省略>によれば本件水路付近の田畑の耕作者が、本件水路の流水を利用していたこと、伊方町九町地区の住民が本件水路の補修等をしていたことがいずれも認められるが、このことから、原告らが本件水路について特定の権利又は法律上保護すべき利益を取得していたものと認めることはできない。なお、原告広野房一、同坪内実之丈、同久保與十一が本件水路を利用していたことを認めるに足る証拠はない。

3  以上のとおりとすれば、原告らは、本件里道等の用途廃止処分の無効確認を求めるために必要な行政事件訴訟法三六条所定の法律上の利益を有しないものといわざるを得ない。

二  被告建設大臣に対する訴えについて

被告建設大臣のした裁決が昭和四九年一〇月二〇日に原告らに通知されたこと、原告らが、被告建設大臣を相手として本訴を提起したのは、昭和五〇年一月一八日であること、原告らが、同年七月一七日訴状の訂正等の申立書を裁判所に提出したことについてはいずれも当事者間に争いがない。ところで、右訴状における請求の趣旨は「被告建設大臣が昭和四八年一〇月四日付でもつてなした国有里道(本件里道)用途廃止処分は無効であることを確認する」というものであること、前記訴状の訂正等の申立書によつて、請求の趣旨はこの判決の事実の第一の一の(二)の趣旨に変更されたことは、いずれも本件記録上明らかである。そして、右新旧の各請求の趣旨を比較すれば、原告らは、前記訴状の訂正等の申立書によつて訴えの変更をなしたものと認められるが、右新旧の各請求はいずれも本件里道について原告らの権利、利益が侵害されたとして、被告建設大臣の処分を争つているものであることは前記各請求の趣旨及び本件記録上明らかなその各請求の原因に照らし明らかであるから、新旧各請求の間には密接な関連があり、かつ、その争点である処分の違法性についても実質上共通するところがある。したがつて、訴えの変更による新訴は旧訴提起の時に提起されたものと認められるから、原告らの訴えの出訴期間の徒過をいう被告建設大臣の主張は理由がない。

しかしながら、前記「被告愛媛県知事に対する訴えについて」の項で認定、判断したとおり、原告らは、いずれも本件里道等の崩途廃止処分を争う法律上の利益を有しないものであるから、延いては、右処分に対する行政不服審査法所定の異議申立に対する被告建設大臣の裁決を争う法律上の利益をも有していないものと認められる。

したがつて、原告らの被告建設大臣に対する訴えは、行政事件訴訟法九条所定の法律上の利益を有しないものによる訴えとして、却下を免れない。

三  被告四国財務局松山財務部長に対する訴えについて

被告松山財務部長が昭和四八年一〇月五日に別紙一記載の土地を四国電力に売り払つたことについては当事者間に争いがない。しかし、<証拠省略>によれば、右売り払いは、普通財産の売り払いであつたことが認められるから、右売り払いは私法上の行為であると見られる。なお、右売り払いは、愛媛県知事のした用途廃止処分と密着した日になされたことは弁論の全趣旨に照らし明らかであるが、このことは右認定を左右するものでなく、他に右認定を左右すべき証拠はない。また、原告ら主張の如く、右売り払いが原子力発電所の建設用地に供するためであつても、右判断を左右するものではない。

したがつて、原告らの被告四国財務局松山財務部長に対する本件訴えは、行政処分でない行為を行政処分として提訴した不適法なものである。

四  むすび

よつて、原告らの訴えは、いずれも不適法なものとみられるので、これを却下し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 柏木賢吉 金子與 岡部信也)

別紙一、二<省略>

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